風関連:台風時某島周辺気流解析

解析の詳細


    数値計算の手順
     対象領域は図5.3に示すように、東西30km、南北40kmで宮古島、伊良部島を含む地域を対象として設定した。領域境界が陸域に近いため、東西方向に10kmずつ、南北方向に5kmずつ拡張し、50km四方を計算領域としている。計算格子の平面方向の設定は図5.4(計算格子全体図)に示すように海域では粗く、陸域では100m間隔の密な格子(X方向格子数357、Y方向格子数216)を採用した。また高さ方向には、図5.4(計算格子(X-Y方向))に示すように海面からT.P.100.0mまでは1.0m~2.5mの密な格子を用い、T.P.100mから1000mでは順次粗い間隔の格子を採用(Z方向格子数60)した。流れ場が複雑な箇所は細かく、平衡流に近い箇所については粗くしている。このような不等間隔格子を用いた理由は、ハザードマップとしての利用を想定しているためであり、計算格子の数が膨大になることを避けるとともに、数値解析モデルの精度、道路や避難場所の規模、電柱の設置間隔などを考慮して定めた。結果として、計算格子の総数は357×216×60の約462万となった。
     地盤高は国土地理院の国土数値情報(50m格子)のデータを、平均化により100m格子に変換したものを使用した。計算領域全体で見れば、陸域の面積は15%を占めている。
     市街地や集落については風の分布に大きな影響を及ぼすが、一つの格子の面積が10,000m2と大きく建蔽率や建物の高さを考慮に入れたモデル化が困難なこと、また採用した乱流モデルが持つ再現精度を考慮に入れると、微小スケールの現象を再現するには限界があることから、地盤高のみで表現することとした。また、防風林など植生による遮蔽効果については、樹木の密度や高さなどその効果を左右する要因について、十分な知見が得られていないことから以下の計算では取り入れていない。


    図5.3 対象領域



    図5.4 宮古島風速場計算モデル


    境界条件については、計算領域外周に下式のようなべき乗則に従った風速の鉛直分布を設定した。

     
         ここで、 :風速(m/s)、 :基準風速(m/s)、 :高さ(m)、 :基準高さ、 :べき乗値である。境界部分が海域であるため とした。
     また、地表面は滑りの無い壁条件( =0)、天空面はすべり壁( )とした。なお、実際の計算に当たっては、境界面における風速の観測値が存在しないため、基準風速を仮定して数値計算を行い、気象台の観測値と比較する。
     この手順を繰り返し、観測値に最も近づいた計算値を最終的な風の場の計算結果とする。
    図5.5に再現計算のフローを示す。

    図5.5 再現計算のフロー図


    6 強風シミュレーション結果と構造物被害
     前述したように、台風14号により電柱や公共施設などは大きな被害を被ったが、その被害の程度には地域的な隔たりがあり、現地調査の結果からも北からの風が集中する強風区域の存在が予測された。このことは第2、第3宮古島台風による住宅被害を調査した京都大学防災研究所の報告でも指摘されており、平坦な島とはいえ強風の複雑な分布特性が、被害状況に大きな影響を与えたものと考えられる。
     以下には計算によって明らかになった強風の分布特性と構造物被害の関連について述べる。

    6.1 計算結果と観測値の比較
     数値計算では、最大風速を記録した11日3時の風の場(北の風、風速38.4m/s)を再現することとし、北側と南側の境界面において、べき乗則に基づく風速の鉛直分布を与えた。ここで、べき乗値nは海上での一般値である0.01とし、基準風速を変更しながら繰り返し計算を行い、宮古観測所の観測地点に相当する格子(地上からの高さ13.5m)の計算値が、観測値(38.4m/s)に最も近づいた値を最終的な風の場の計算結果とした。
     表6.1には、そのようにして求められた計算値と観測値との比較を示したものである。
     宮古空港南、下地空港南では若干の相違が認められるが、伊良部、下地空港北の観測所では良く一致していること、適用した乱流モデルの再現精度には限界があること、などをあわせて判断すると、ほぼ妥当な計算結果が得られているものと考えられる。
     なお、この場合の基準風速は、 =32.7m/sとなっているが、これらの値はこれまで台風による風の場から得られた観測値などと大きな相違は無く、図6.1に示すように洋上における風速分布としてほぼ妥当なものといえる。

    表6.1 計算値と観測値の比較



    図6.1 与えられた風速の鉛直分布



    図6.2 観測所位置図


    6.2強風分布の分析
     宮古島・伊良部島の地形特性を把握するために、地盤高を3Dマップ化した図6.3を見てみると、宮古島については、島の中央部では丘陵地帯が広がっているが、その中を北西から南西方向にかけて、3本の断層が走っており、この断層上が一段と高い地域となっている。一方、島の西側では平良市街地の少し北から下地町に至るまで標高の低い平地が断続的に続いている。また、島の東側の海岸線沿いは、西平安崎から東平安崎までほぼ崖地が続いており、南側の海岸線沿いも島の中央部あたりまでは崖地となっている。伊良部島については、殆んどがなだらかな丘陵地からなる伊良部島本島と標高の低い平地である下地島が連続している。このように平島といわれる宮古島・伊良部島でも地形条件は複雑であり、風の場も相当に地形条件の影響を受けるものと考えられる。

    図6.3 宮古島・伊良部島の地盤高


     図6.4、6.5、6.6、6.7、6.8にはそれぞれ地表面から1.5m、5m、10m、15m、20mの高さにおける風速と風向の再現結果を示しているが、これらの図からわかるように、宮古島においては、30m/sを超える強風区域がおおよそ3地域存在することがわかる。一つは島の中央部の断層に囲まれた丘陵地帯とそれに連続する断層上の地域である。二つは島の東側の海岸線沿いで海から崖地を吹き上がる風により強風域が形成されている。三つは島の西側の周囲を丘陵地に囲まれた地域であるが、北の方角に開いた盆地上の地形となることから、海からの北風が進入しやすい地形条件となっている。また、伊良部島でも同様に島の東側の高台や、北からの風を遮蔽するところがない北側の海岸沿いと西側地域に強風域が集中している。
     また、風向をみてみると大半は北の風となっているが、高さ10m程度までは断層地帯の谷筋などを中心に、風向が複雑に変化しており一様でないことがわかる。このように計算結果は地形性状を良く反映したものとなっている。 また、海域の風の分布についても島の北側には風の増高域が、南側には減衰域が形成されており、島の影響が明らかである。

    図6.4 再現計算結果(高さ1.5m)



    図6.5 再現計算結果(高さ5m)


・解析の概要
 台風時の強風シミュレーション 台風による風の場の解析は、一般に転向力と気圧傾度力がつりあって、同心円上の風が吹く、いわゆる傾度風モデルが採用される。これはマクロスケールの風の場を推定するもので、防災計画や避難計画をたてる上では、微小地形の影響などを考慮した風の場を再現できるモデルが求められる。ここでは、ハザードマップの最も基礎的な情報となる強風区域を特定するにあたって、乱流の数値シミュレーションとして信頼度が高いLES(Large Eddy Simulation)採用し、宮古島や伊良部島の風の場を再現するとともに、観測データや被害状況の調査結果と比較し、モデルの妥当性を検証した。以下にその内容について述べる。
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