第30回 BIMウォッシュ(BIMについての誇張宣伝)による弊害について

 今回も、CFDの取り組みをお休みして、BIMについての話をさせて頂きます。今回は、昨年(2023年)のDX展で取り上げたBIMウオッシュについてお話ししたいと思います。実は、この内容は、BIM Think Spaceというブログの、EPISODE16: Understanding BIM Washに書かれている内容をベースにしています。


BIM Think Space EPISODE16: Understanding BIM Wash
https://www.bimthinkspace.com/2011/06/episode-16-understanding-bim-wash.html



 この記事は、2011年に書かれたものですので、すでに13年前のものになります。なぜそんな古い記事をと思われるかもしれませんが、この時期に英国でBIMの進展について悩んでいたようなことは、今の日本に当てはまるようことのように思います。そもそも、BIMは、なんの苦労もなく今があるわけではありません。BIMソフトウェアという2次元CADに変わる基本的な技術に注目し、それを建設業界の課題解決に向けて、どのように活用すべきか、考え、調査し、研究し、そして体系化されていったのではないかと思うのです。そういった意味ではBIMは学問といえるものです。このBIM Think Spaceというブログは、そういったことを考えさせてくれるもので、とても興味深いものです。こういった研究と試行錯誤の末に、国際規格であるISO19650が出来てきたのだという歴史を感じるという意味でも興味深いものです。
 このEPISODE16は、「BIMウオッシュを理解する」というものです。最初に、「BIM ウォッシュとは、BIM製品またはサービスを使用または提供することに関する誇大な、そして時には誤解を招く主張を表す用語です。」と書いていますので、私は、BIMウオッシュを、「BIMについての誇張宣伝」と訳しておきます。日本でも、毎日のようにBIMに関する記事が出ています。ただ、まったく事実無根の取り組みを発表するような企業はないと思います。しかし、開発中やまだ実践に至っていないような取り組みを、すでに実践活用できているように説明することは、このBIMウオッシュに当たるのではないかと思います。
BIMウォッシュによる弊害は、これらのニュースを見た発注者が、正しくその企業のBIMの力を判断できなくなるということです。実際、ニュースだけを見ると、建設業界の大手企業すべてが、2次元CADの業務を卒業して、当たり前にBIMソフトウェアを使って実務をこなしているというように思えますが、実際は、一部の実験的もしくは要求された物件のみにBIMソフトウェアを後追いで使っているという状態であったりします。


2023年のDX点の野原グループブースで講演した資料の一部



 実は、私のいた会社で、ベトナムでのBIM協力会社を視察することがありました。その当時も日本の多くの企業がベトナムの企業にBIM業務を依頼していたのですが、その当時の、ほとんどの企業が2次元の図面を元に干渉チェックのための3次元モデルを作るというものでした。私は2次元CADの協力業者のように、基本設計図を元に実施設計図を作成するというような企業を探していたのですが、見つけることはできませんでした。そのため、自分たちの子会社を育てることにしました。ということは、多くの企業のBIMが、実際は2次元CADの後追いでBIMモデルを作っているという実態があるのだなと、その当時は思いました。


2023年のDX点の野原グループブースで講演した資料の一部



  私の前職の会社のように、BIMソフトウェアを使ってすべての設計業務を行うということころも出てきています。前職の会社では、意匠・構造は、すべてRevitを使って設計をしていますが、設備については、現時点半分ぐらいという状況です。設計者が1000人以上のクラスの企業では、これでも、群を抜いて多い数値です。

 このEPISODE16では、このBIMウォッシュを理解するために、BIMウオッシュを4つのレベルに分けています。

レベル1:意図しないBIMウォッシュ
 例えば、BIM自体が何かを理解してなく、自分自身の考えでBIMについて語っている場合です。BIMで図面を書きましたとか、BIMでパースを書きましたという話がありますが、これはBIMではなくBIMソフトウェアと書くべきです。 また、2次元CADの後追いでBIMソフトウェアでBIMモデルを作ることが、BIMであるとそもそも勘違いしている場合もあります。これで全物件実施しても、生産性の向上などの本来のBIMの価値にはつながりません。

レベル2:経験不足によるBIMウォッシュ
 例えば統合モデルによる干渉チェックや、BIMのモデルからの図面作成など、すでに当たり前になっている技術や考え方を、最先端の技術として誇張宣伝しているような場合です。企業のマーケティング部門の担当者は、BIMの知識があまりないために、何が最新技術なのかはわかりません。従って、それが最新技術だと思い込み、結果的に誇張宣伝となる場合もあります。 レベル1とレベル2は似ていると思います。

レベル3:誇張表現のBIMウォッシュ
 なんらかのBIMの取り組みを、ハリウッドの特殊効果のように、実際の状態をはるかに超えた誇張をして宣伝に使っているような場合です。例えば、本社部門でかなり先進的な取り組みを説明しているにも関わらず、多くの実務担当者は、それを使うことができず、場合によっては、そのこと自体も知らない場合もあり得ます。

レベル4:完全な虚飾によるBIMウォッシュ
 ほとんどできていないことを、できているかのようにBIMの取り組みを宣伝するような場合です。事実に基づいていないので、顧客の興味を引く説明をいかようにも作ることができます。これは、大規模なBIMプロジェクトを受注するために行われることが多く、受注できた後は、すべて協力会社に丸投げするようなことになります。

こういった状態が生まれる土壌として、これらのニュースを見る方の側が、その真偽を判断できないということがあります。特に、発注者がBIM自体を理解できていない場合、BIMウオッシュな情報を鵜呑みにして、業者選定を行う可能性があります。しかし、ある程度BIMに対する知識を持っている方なら、これらのニュースに対する見方も変わってきているのではないかと思います。


最後にISO19650などの国際規格によるBIMの定義を記しておきます


ビルディング情報モデリング(BIM)の定義
意思決定のための信頼できる基礎を形成する設計、建設及び運用プロセスを容易にするための建設資産の共有デジタル表現の使用

 日本においては、BIMとは何かという基本的なことが曖昧であるなら、日本におけるBIMウオッシュは致し方ないことなのでしょう。しかし、各社のISO19650などの取組から、BIMについての正しい理解が広がって欲しいと願っています。