解析の詳細
【街中の町家 48 Tran Phu の家】
ホイアン市街地の一般的な町家の特徴としては、中庭と後ろ庭が配され、前家の屋根が折りたたまれて谷状の形状となっている、という2 点が挙げられる。(図2)
その条件を満たす典型的な町家として、48 Tran Phu の家を取り上げてシミュレーションを行った。(図3)
比較の対象として、現状の屋根形状の「現屋根」、現屋根の断面を前後に反転させた「逆屋根」、一般的に雨仕舞が合理的である「大屋根」の3種類の屋根形状について、前家・後家・道路を挟んだ向い側の家の3 棟でシミュレーションを行った(図3~5)。
3 種類の屋根形状を比較すると現屋根が最も風が入っていることがわかる。このように、この屋根形状は雨仕舞の点から考えるならば非合理的なものであるが、風下の建物における室内の通風という視点から考えると非常に合理的なものである3)。
【川沿いの町家 101 Thai Hoc の家】
川沿いの一般的な町家の特徴としては、前家と後家の間に中庭を有しており、前家の風上側(川側)の開口部面積が小さく、風下側(道路側)の開口部面積が大きいという点が挙げられる。
シミュレーションの結果は現屋根の風速図、パーティクルパース図について見てみると、前家の風の入る面と出る面の開口部面積の差がほとんどなく、風の流れに対する抵抗が少ないので、後家の1 階に入った風が前家にほとんどそのまま流れ込む。
また、前家の北面は、道路に面する1階よりも2 階の方が開口が大きいため、風が2 階の方にも流れていることがわかる(図11~12)。
逆屋根の風速図、パーティクルパース図について見てみると、前家の北面の開口部は道路に面する1階にしかないために面積は小さく、前家の風の入る面の面積は風の出る面の面積よりはるかに大きい。
よって前家の内部は圧力が大きく(正圧に)なる。そのため、後家の1 階に入った南風は前家には入らず、屋根の上に逃げてしまっている(図13~14)。
このように、逆屋根に比べて現屋根のほうが、風下にある前家の通風を考えると効果的であることがわかる。ただし、現屋根において前家に入る風は後家の室内を抜けてきたものであるから、後家の風上に建物があったならば、後家の室内に入る風は少なくなり、前家の屋根形状もその効果を発揮しないであろう。
すなわち、101 Thai Hoc の家の前家の屋根形状は川沿いの町家でのみ効果的なものなのである。
図9 101 Thai Hoc 現屋根
図10 101 Thai Hoc 逆屋根
【まとめ】
以上に述べたように、街の中にある48 Tran Phu の家、川沿いにある101 Thai Hoc の家について、それぞれの立地において、その屋根形状が町家内部の風環境の面で効果的であることが明らかになった。本解析のように、WindPerfectを用いることで町家が並ぶ街区内における建物内外の通風状況を把握することが可能である。
本解析事例で検討対象としたホイアンは16~17 世紀に成立したベトナム中部の都市である。その後繁栄を続けたが、19 世紀にホイアンの街は衰退した。しかし、その結果として古くからの町家が多く壊されることなく現在まで残っており、今回はその町家を研究の対象としている(写真1)。ホイアンの気候は、ベトナムにおいて一般的な、高温多湿なものであり、夏期の最高気温は40℃にもなる。ホイアンの南側にはトゥーボン川が流れ、夏期に川側から吹く風をどのように町家の中に取り入れるかという点に着目した。
【解析概要】
解析概要は以下の通りである。
解析モデルを図1に示す。
初期条件については、周辺地域の気象データより求めた風配図に基づき、気温を35℃とし、南風の風速を2.0m/s とした。本解析では湿度の設定は行っていない。
写真1
図1 解析モデル
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