解析の詳細
【解析結果】
この流れをCFD(計算流体力学)でどの程度再現出来るのでしょうか。下図は風洞実験で得られた風圧値を、立方体の全面―上面ー後面に沿ってプロットしたものです。前面側の圧力分布は、乱流モデル無しの1次風上差分でも十分風洞実験と合うのが分かります。一方、上面の圧力分布は標準k-ε、1次風上とも大きく風洞実験値から外れています。後面は流れが遅いからかどの方法でも合うようです。 これは後流側では流速が遅いからと考えられます。
図4 立方体の無次元化壁面風圧力
この図を見て分かるように、標準k-εモデルでは前面の圧力が過大になり、上面では傾向そのものが全く合わない事も分かります。この理由は、立方体前面では乱流エネルギーの生産項が過大になるからだと言われています。
また上面では、実験は角部で剥離した流れが逆流域を形成するのに、標準k-εモデルでは過大な粘性のためにアプローチ風に対して順方向に流れを形成するからだと言われます。 即ち、上面では標準k-εモデルはフローパターンすら実際と合わないのです。 風圧力解析で標準k-εモデルを始めとするRANS(レイノルズ平均ナビエ・ストークス)系乱流モデルが使われない理由です。
ではどうすれば立方体の風圧力を予測出来るのでしょうか。
アプローチは2つあります。
1つはLES(Large Eddy Simulation)を使う方法です。 RANSが時間平均モデルと言われるのに対して、LESは空間平均モデルと言われますが、考え方としては大きい渦は平均化して解き小さな渦はそのまま解くと言うものです。LESは大きな実績を残していますが、壁関数が使えない事や壁面付近の格子を狭く取らないと解けないなどの問題を抱えています。
2つ目は我々が取った方法、DNS(Direct Simulation:直接シミュレーション)です。乱流モデルを使わない乱流解法です。我々が使っているDNSはハイブリッド中心差分と言われるもので、中心差分に若干の人工粘性を混入して、計算を安定化させようとするものです。元々CFDでは、中心差分で安定的に解ければ、乱流を含めた流体現象は全て解けるはずです。しかし中心差分は一般に非常に不安定なので、計算を長時間維持する事が出来ません。そのための人工粘性混入です。
結果は次のとおりです。
図5 立方体の解析モデル 0°(風洞実験・数値解析共通)
図6 立方体の無次元化壁面風圧力 0°
図5で解析モデルの概要、図6で結果を示しますが、DNSを用いたWindPerfectの結果は、立方体前面・上面・後面の風圧分布をほぼ完璧に再現しています。それに対して、標準k-εモデルの結果は、どのようにしても風圧分布を再現出来ません。これが風荷重・風圧解析で標準k-εモデルを含むRANS系乱流モデルが採用されない理由です。
この時の立方体周りの流れ場はどうなっているでしょうか。それを図示したものが次の図です。 図7では立方体の表面風速分布を表しています。 計算開始直後は、風速は前面で小さくなり、角部に近づくにつれて早くなり剥離して後方では一旦弱くなります。これ以降は流れは変動を満ちながら推移し、角部からの間欠的な渦放出が特徴的となります。
図7 立方体周りの流れ場 0°(瞬時値)
この時、風圧分布を見てみると、流れの様相が更に良く理解出来ます。図8では、立方体の角部で剥離による渦が起きた次の瞬間にそれが風下方向に移動し、間欠的な渦生成と不出に繋がる様子が観察出来ます。 負圧の等値面(ボクセル)の形状はあたかもバナナ渦のようであり、それらが連続的に放出される経過も分かります。 この負圧の変動を追跡する事が風圧力の正確な評価に直結しています。
図8 立方体周りの流れ場 0°(時間経過)
更に我々は、立方体を45°斜めに置いての解析も試みました。
図9 立方体の解析モデル 45°(風洞実験・数値解析共通)
図10 立方体の無次元化壁面風圧力 45°
ここでもWindPerfrctのDNSは立方体各面の風圧をほぼ完璧に再現しました。 ここで注目して頂きたいのは、カットセル法などを使わない通常の構造格子でも結果であると言う事です。
ここでもやはり流れ場の様子を見てみましょう。図11は、45°に置いた立方体の表面風圧分布ですが、前面で正圧が立つのは普通ですが、上方角部で剥離した後、2つのコニカル(円錐形)の渦が現れるのが特徴的です。建築物の風圧力解析には、少なくともこう言った流れの現象の特徴が再現出来るスキームを選ぶ必要があります。
図11 立方体の壁面風圧力分布 45°
【まとめ】
立方体の各面の風圧にDNSによる数値流体解析を適用したところ、各面で実験との極めて良好な一致を見た。
風が立方体に正対する風向だけでなく、斜め45°の風向に対しても、DNSによる解析は、カットセル法を使わなくても実験との良好な一致を見た。
ここではその基本的な構造を説明する事にします。
図1 風洞実験概要 つくばBRIC研究会「立方体周りの平均流れ及び壁面風圧のCFD解析」
この実験で、立方体周りではいくつかの特徴的な流れがある事が分かります。 立方体の風上側下方で起こる逆流、上面で起こる剥離渦(中は逆流)、後流で起こる大きな逆流渦です。
図2 風洞実験に見られる立方体周りの流れ
これらはいずれも逆流ですが、生成原因が異なります。 風上側下方で起こる渦は風が建物に当たって下に向かう事によって起こり、上面で起こる渦は立方体の上方角部ではく離した流れによって起こります。 この渦は極めて流速が速く大きな負圧を発生します。 後流で起こる渦は、流れが立方体の後ろ側に回り込んで起こるもので、比較的穏やかなものになります。
下の図は、大まかに立方体各面の圧力の様子を表したものです。 立方体前面には強い正圧、上面と側面には強い負圧が掛かる事が分かります。 後面の圧力は他の面ほど強くはありません。
図3 風洞実験に見られる立方体各面の圧力
これらの流れ現象を数値流体解析で模擬できるのかが、本稿の主題です。 フローパターンは合うのが当然で、ここでは各面の圧力分布が合わなければ意味がありません。
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