前回は村上ら(筆者も含む)の風環境評価尺度作成の元となる「居住者の日誌を用いた風環境調査」の経緯と概要をお話ししました。
今回はこの尺度の考え方の補足と風洞実験やCFDを用いた適用方法について述べたいと思います。この内容は風環境専門家の間で語りつくされた感がありますが、改めて平易に説明してみたいと思います。(紙面の都合上すべてを記述しきれませんが)
前回も述べた通り風環境評価には評価者の風に対する印象を反映した、わかりやすい評価尺度が望まれます。
風は通常「風が弱い場所、強い場所」等の表現が用いられます。丸の内で勤務する次女(1
児の母、コロナで自宅テレワーク中)も丸の内は風が強いとよく話しています。
しかし、次女が「風が強い」という丸の内でも常に風が強いわけではなく、むしろ弱い時間の方が多いはずです。逆に弱いといわれる場所でも、強い風が吹くことも当然あります。ではなぜ、次女は「丸の内は風が強い」と表現するのでしょうか?それは強風による被害を受けた「頻度」が高かったからと考えられます。風が強かったことの経験として吹き飛ばされそうな歩行障害や風でモノが飛散したことなど皆さんもよく経験されることでしょう。次女も丸の内で歩行障害等に何回か遭遇したのでしょう。ではこの丸の内界隈の風環境は全国的にみてどう評価するのでしょう?これに答えようとして開発されたのが本評価尺度です。
あるエリアの風環境を評価する際、評価する期間は「年間」が妥当です。年間で考えるなら1日で最も強い風とその頻度を取り上げるのが最もシンプルです。そこで本評価尺度では強風を代表する日常の最もわかりやすい尺度として1日の最大瞬間風速をとりあげ、1年間で10m/sを超える日数等を尺度の基準としています。(ここでは、簡単に述べています)
この評価手法の概要を以下に説明します。評価に関連する項目は以下の通りです。
「場所」2 種類
①上空(気象データの測定位置)と2地上(評価する地上付近のエリア)
「風速」2 種類
①日最大平均風速と2日最大瞬間風速。
「風向」16 種類(上空の風向
気象データは通常 N,NNE,NE 等 16 風向で整理されます)
「頻度」2 種類
①上空の強風頻度
②地上の強風頻度
この強風は上記日最大平均、瞬間
求めたいものは地上の日最大瞬間風速(例えば10m/s)の頻度です。しかし、一般的に入手できるデータとしては気象データ(上空の(日最大を含む)平均風速と頻度)です。この気象データを用いて地上の日最大瞬間風速の頻度を求めることになります。まず、上空の日最大平均風速の出現頻度を気象データから求めます。上空の風向ごとに上空と地上の平均風速比率はほぼ一定とみなせるため、風洞実験やCFDからこの比率を求めます。これにより上空の強風(日最大平均)の出現頻度は地上の強風(日最大平均)の頻度に換算できます。最終評価は日最大瞬間風速の頻度なので得られた日最大平均風速にガストファクタ(後述)を乗じて瞬間風速に換算して評価を行います。ここで平均風速と瞬間風速が入り混じるのはCFDや風洞実験、気象データでは通常平均風速を取り扱うのに対し最終評価で求められるのは瞬間風速だからです。そこで問題になるのはこの両者をとりもつガストファクタです。ガストファクタはある時間帯(例えば10分間)の最大瞬間風速をその間の平均風速で除したもので突風率ともいわれています。通常1.5~3.5程度です。
本評価尺度におけるガストファクタは上空において日最大風速が発生した時に各地上評価点においても日最大(瞬間)風速が発生するという仮定したものです。これは本尺度開発当時の気象データの整備状況や解析の取り扱いの簡便さに基づいて検討されたものです。細かく言えば危険側の予測になるとも言えるため、実用上はガストファクタを安全側の数値を採用することによって対応しています。この問題をより合理的に考えるには16風向中の最大比率(地上と上空の)を全ての風向時に採用するという考え方もあります。
いずれにしろ、このガストファクタ問題は継続して検討すべき重要課題です。
次にCFD結果を用いた環境評価の検討方法について述べたいと思います。一般にビル風問題は施主側(あるいは解析者)が関係住民の方に結果説明を行う必要があります。筆者も大成建設時代何回も現場に足を運び、住民の方々に説明した経験があります。しかし、このような場合、最終ランクマップの提示以前に風の大局的メカニズムからの説明が有効ですが、パワポや白板で風の動き(大局的メカニズム)を口頭で説明しても説明しきれず、逆質問を受け宿題として持ち帰るということを何回か繰り返しました。このような際には本来CFD結果の可視化技術が有効なはずです。CFD解析結果からは風洞実験からでは得られない多数の有益情報が取得できます。例えばある強風ポイントから逆流線を発生させ、どの風向からの強風がどのような挙動で地表にまいおりるか等、本来風がもつ3次元的挙動と建物群との関係が理解できます。ほかにも建設前後における風の挙動の相違を同時に3次元的に表現したり、最も適切な強風防止案(樹木配置)の効果を可視化することが出来ます。後日このようなビル風説明用システムの必要性を強く感じ、数年後ビル風専用のインタラクティブな可視化システムも開発しました。
ところで風環境を総合的に考えるともう一つ重要な視点があります。風は弱すぎても 通風換気阻害、ヒートアイランド、熱中症等の問題が生じます。筆者らはこのような場合の「弱風~強風も含めた適風環境(気温を考慮した風環境評価尺度)」も作成しています。この尺度は通風阻害を避けるような街区のマスタープランを作成する際などに適用され始めています。
次回はこの適風(弱風)に対するテーマについてお話したいと思います。