先日TVを見ておりますと元総務相の片山氏が「最近無風時間が長いと感じる」とある番組で話しておられました。コロナ禍におけるマスク着用時の熱中症対策(体感温度)に関してのコメントの一部で風がもっと吹けば良いのにという趣旨のご発言です。最近はコロナ対策においても、熱中症対策においても、風(空気)や換気の話題が連日TV等で放映され国民的話題ともなっているようです。
また、東京オリンピックが1年延期されたことは残念な出来事です。個人的には 観戦チケット当選もしておりますので来年の開催を強く期待しているところです。さて新国立競技場の設計コンペ時に記憶を戻すとオリンピックが夏季開催ということもあり、まさに暑熱対策、風の導入に知恵を絞ったことを昨日のことのように思い出します。筆者も環境解析担当の一員として主にスタジアム内外の温熱環境の検討を行いました。東京地方の日射、気温、湿度、風等に関する10年程度の気象データをにらみながらCFDを駆使してスタジアム内外のWBGT(最近よく耳にす熱中症指標です)を予測して、「風の大庇し」の採用など少しでも熱中症を防げるような対策を数多く検討しました。
また、今後のスマートシティやSDGs未来都市に代表される新たな都市の自然環境の在り方に目を移しますと地球温暖化やヒートアイランドの影響もあり、緑豊かな風通しのよい街づくりの重要性がますます高まっているようです。
これらの事柄から共通して読み取れることは建物周辺や市街地の風環境においては強風を抑えるという視点だけでなく風を取り入れよう(弱風状態を防ごう)という視点が今後ますます重要になってくるということです。
つまり単純に表現すると風は強すぎても弱すぎても良くないのです。筆者らは強すぎたり弱すぎたりする風環境を非適風環境、それ以外を適風環境と呼んでいます。
(この適風、非適風という用語は私のDR論文の副題にも使用しています)
前回のコラムでは強風を防ぐという観点から村上らの風環境尺度を紹介しましたが、実は村上らの尺度には(強風の尺度ほどは知られてはいませんが)もう一つ適風に関するものもあります。以下簡単に概要をご紹介しておきます。適風、cs非適風は当然気温(だけではありませんが)を考慮する必要がありますので評価風速も気温ごとに整理されています。
強風は前回ご紹介したように、日最大瞬間風速を用いたのに対し、以下に述べる指標では気温、風速とも日平均値を用いています。これは強風評価には瞬間値、弱風(~適風)評価には平均値の採用が妥当と考えたためです。
「(風が欲しい)と感じる(弱風による非適風)」は日平均気温25℃以上の場合のみ出現し、日平均風速で0.7m/s以下。
同様に「強風による非適風」は10℃未満、10℃~25℃、25℃以上の3段階に分け各々1.3m/s、1.5m/s 、1.7m/s以上という評価尺度です。
この適風に関する評価尺度はほとんど使用されていないと思い込んでいましたが、これを利用した都市計画に関する研究事例もありました。東北大の持田教授グループが行った適風範囲に入るための建物建蔽率を各都市において提案した研究です。風速は建物の密集具合(≒建蔽率)により変化します。どの程度の建蔽率にすれば各都市が適風範囲に入るかを各地域の気温を考慮しながら検討したものです。この論文は英文journalにもなっておりGoogle scholarでも被引用件数189と広く海外でも有名な論文とのことです。
我々の適風範囲の提案もこの論文と連動して海外でも数多く参考にされているとのことで大変嬉しく思いました。
以上、今回は風は強すぎても弱すぎても人間の評価としては好ましくない。その間にある「適風という考え方」が重要であるということについて簡単にご紹介しました。