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省エネ・低コスト設計をWindPerfectDXで実現 小さな設計事務所で高度なシミュレーション
茨城県つくば市にある環境工作室一級建築士事務所には、近隣の研究機関から実験設備の新設、改修工事の検証や相談ごとが多く舞い込んできます。研究機関が必要とする実験環境を、いかに低コスト、省エネルギーで実現するかが勝負なのです。環境工作室代表取締役の児玉欽司氏は、環境シミュレーションの熱流体解析ソフト「WindPerfectDX」を活用し、高精度の解析を行っています。設計内容を “見える化” して分かりやすく表現することが、顧客からの信頼につながっています。(取材:建設ITワールド 家入 龍太氏)

解析精度の高さを実測で確認

約10年前、プラントメーカーの設備設計を担当していた児玉欽司氏は、高度精度な気流解析の必要性にせまり、環境シミュレーションの熱流体解析(CFD)ソフト「WindPerfect」と出会い、使い始めました。
 当時の仕事の一つは、あらゆる発熱機器が混在する工場建屋の換気解析です。平面的、かつ上下方向でも複雑に機器が配置されていることで、定常状態の考え方では予測が難しく経験則といった根拠の割り出しにくい(ある種ギャンブル的な)ところがありました。清掃工場では自前の発電機からの電力で稼働することも求められているので、少ない動力で換気パフォーマンスの高い自然換気に近いシステムが計画当初から求められました。

 

WindPerfectで解析した清掃工場内の気流 (提供資料 : 株式会社サンプラント)

 

「空気の流れや温度分布をWindPerfectで計算し、最適な換気計画を追求しました。建設後、最高50℃程度にも達する建屋内の気温を、社内のスタッフ10人がかりで計測したところ、シミュレーション結果の誤差は1.0℃以内でした。この経験によって計算結果の正しさや解析精度に対する自信を得ました」と児玉氏は振り返ります。
 2008年に独立し、茨城県つくば市に株式会社環境工作室を設立した後は、自社用に最新版のWindPerfectDXを購入しました。それ以降、研究機関の実験設備の新設や改修など、様々な設計業務に大活躍しています。

 

WindPerfectDXを活用する環境工作室代表取締役の児玉欽司氏

 

ある研究機関から依頼されたのは、実験用水の冷却システムの改良でした。プールのような貯水池による自然冷却と、冷凍機による冷却を組み合わせて、最小の設備、消費エネルギーで所定の温度の冷水が得られるようにするものです。
 WindPerfectDXで貯水池と冷凍機の放流口、実験装置への取水口のモデルを作り、放流口や水中フェンスの位置を変えながら、水の流れや温度分布をシミュレーションしました。
 その結果、効率的に水を混合し、均一な温度で各実験装置に水を供給できる設計にたどり着きました。小さな冷凍機を効率的に使うことで、発注者が求める省エネと低コストを実現したのです。

 

解析結果を 「見える化」 し、発注者も納得

2011年に行われた独立行政法人 物質・材料研究機構の移転では、高精度のCFD解析が求められました。同機構の目黒地区には、材料のテストピースを数百℃に熱したまま、数十年間も引っ張り続ける「クリープ試験機」が629台もあります。この試験機をつくば市内の千現地区(本部)に移設することになったのです。移設先となる建物は、既存の建物を改修して用意しました。その際、課題となったのは、試験機設置場所の温度を均一に保つことでした。
 つまり「多数の試験機から発生する熱を空調機等により、偏ることなく均一な室内温度分布にすること」でした。加えて電力使用量(インフラ)での制約もあり、効率的な空調機の配置を望まれたことでした。このことは、意匠計画と設備計画の総合的な検討が必要なことが問われることとなり、本工事の施工者でありクライアントでもある勝田電設工業株式会社様から環境工作室に依頼がありました。
原設計(発注図)でWindPerfectDXで解析したところ、温度が不均一になることが分かりました。「温度分布などの解析結果をグラフィカルに『見える化』した資料を作り、発注者に説明したところ設計変更の妥当性を理解してくれました」と、児玉氏は語ります。

 

元の設計(左)は、試験機の位置での温度分布が不均一なことが分かった。 改良後の 設計(右)は温度が一定になったことを確認 (提供資料 : 勝田電設工業株式会社)

 

改良後の設計。鉛直方向(左)、水平方向(右)ともに気流がスムーズに流れ
試験器付近の温度も一定であることがわかる(提供資料 : 勝田電設工業株式会社)

 

WindPerfectDXによる熱流体解析作業

 

 同社では、大きな制約でもあった法規制もクリアした上で建屋の天井をフラットな形に改めるとともに、空調の吹き出し口位置も実機ベースで試験機の配置に合わせました。そしてWindPerfectDXで設計結果を検証したところ、試験機の加熱装置上部の温度が均一になることが分かりました。
 この設計をクライアントである電気サブコンを介して最終的に機構側にも承諾いただき、建屋の改装工事が行われました。 2011年3月に現場を訪れると、既に数十台の試験機が移設され、調整作業が行われていました。

 

児玉氏の提案に基づいて改装された建屋。 試験機の設置位置での温度分布 を均一化するため、吹き出し口や排気口の配置をWindPerfectDXで検証した

 

  • 厳格な温度管理が求められるクリープ試験機 (左)
    と既存建物を改修した建屋の外観

 

ノートPCでひと昔前のスパコン並みの計算を実行

 かつては熱流体解析にはスーパーコンピューターやワークステーションといった高価なハードウエアが必要でした。しかし、ハードの性能が驚異的に向上したこともあり、WindPerfectDXを使うと、ひと昔前のスパコンと同等以上の計算をわずか十数万円のノートパソコンで実行できます。
 そのため、以前はWindPerfectを導入するのは大手企業が中心でしたが、最近は環境工作室のようなアトリエ系の小規模な設計事務所でも、導入するケースが出てきています。
今回は、電気サブコンといった業者を介しての設計作業でしたが、直接的な介入がなくともしっかりと最終クライアントである機構側にも納得のゆく資料ができたのもソフトの威力だろうか。

アトリエ系の小規模な設計事務所でもWindPerfectDXは武器になる

 

「最新版のWindPerfectDXは、解析に使う流体の密度や比熱、動粘性係数などの物性データが内蔵されているため、普通の設計者でも2~3日間練習すれば使えるようになるでしょう。解析結果はグラフィカルに表現できるため、専門知識のない発注者にも設計内容を分かりやすく説明できます。複数の関係者間で合意形成を行うのもスピーディーですね」と児玉氏は言います。
「使い方は簡単ですが、奥が深いソフトでもあります。10年間使っても、ソフトの性能の限界は感じません。CFD解析ソフトは特殊な計算条件の場合、まれにエラーが起こることもあります。そんなとき、問題解決に欠かせないのがベンダーの電話サポートです。環境シミュレーションは自社でも受託解析を行っており、様々な解析業務のノウハウを蓄積しているので、電話サポートの内容にはいつも満足しています。そこで独立後もWindPerfectDXを導入することを決めました」(児玉氏)
 会社設立から3年。環境設計室には、つくば市周辺の様々な研究機関や他県の大規模工場などから、設計や解析の業務依頼が次々と持ち込まれている。経済環境が厳しい中、同社はWindPerfectDXを武器に、着実に業績を上げている。

「環境シミュレーションの電話サポートの内容には満足している」 と語る児玉氏

 

取材協力:環境工作室一級建築士事務所

取材にご協力頂きました、児玉様はじめ社員の皆さま、誠にありがとうございました。