株式会社BIMプロセスイノベーション(BPI)の伊藤と申します。2005年ぐらいに、Revitを知り、BIMという新しい概念に出会い、それからずっと、BIMで建設業界を変えたいと思ってきました。今年(2021)の4月に、BPI を立ち上げました。私は、会社名の通り、「日本のBIMプロセスを改革する」ための活動を行ってゆきたいと考えています。
さて、今月から株式会社環境シミュレーション様のホームページで、コラムを書かせて頂くことになりました。ただ、私は、CFDにとても興味は持っていますが、あまり知りません。しかし、阪田社長から、CFDに拘らず自由に書いてくださいとのお話を頂きましたので、「日本BIM見聞録」というタイトルで、BIMに関わる話題を提供してゆこうと思います。できる範囲で、BIMとCFDの関係なども、いつか書くつもりでいます。
この「日本BIM見聞録」は、これまで15年以上、BIMに取り組んできて、見聞きした私の経験などを、気負いなく書いておこうとするものです。その時々で思ったことを書いてみようと思います。記念すべき第一回は、チェンジ・モンスターです。チェンジ・モンスターについては、東洋経済新報社から出版されている「チェンジ モンスター なぜ改革は挫折してしまうのか?」という本に書かれています。これをBIMに例えて考えてみましょう。
BIMはプロセス改革です。チェンジ・モンスターとは、その改革を妨害したり、かき回したりする人たちのことです。私がBIMを始めた15年前には、BIMという言葉さえ理解されないものでした。3次元で設計して図面も書ける新しい技術だと言っても、「いったい何を言っているのか?」という感じで相手にしてもらえない時代もありました。むしろ私の方がモンスターだと思われていたのかもしれませんね。
日本の建設業界、手書きからCADに変わろうとする黎明期に、3次元CADというものが導入されかけた時期がありました。CGパースが高価な機械で長い時間をかけてやっと1枚書けたというような時期に、高価な3次元CADが登場して、建設業界はそれを取り入れようとしました。それは見事に失敗に終わっています。バブルの時期に何千万もかけて揃えたコンピュータが、大して役に立たないということに気づき、日本の建設業界は結局2次元CADだけ残りました。そのころ、3次元CADの導入に情熱を燃やした方たちが、今の時代になって、管理職や企業のトップになり、そのころの苦い思いから、トラウマになってしまった「過去の3次元CAD」のように思えるBIMの導入に前向きになれず、チェンジ・モンスター化する場合もありえます。その当時の3次元CADと現在、我々が取り組んでいるBIMとでは、本質的に違うものなのですけどね。
チェンジ・モンスターには様々なタイプがあります。それらは、普段は潜伏していて、改革が活性化すると、活動を開始します。チェンジ・モンスターの暴れ方次第で、改革カーブが変わってゆきますが、それらのモンスターを退治することで、成果が見えてきます。
チェンジ・モンスター「ミザル・キカザル・イワザル」というのは、何も行動せず、改革の嵐が過ぎるのをじっと待つような人たちです。彼らは「どうせ今回も失敗に終わる。かかわるだけ無駄だ。」というようにリスクを恐れて行動をしません。実はこの手の方たちが、最も手ごわい方たちです。反対意見でも出れば、それを解決することで糸口を見いだせるのですが、何も関わってくれないと、解決の糸口は見えません。
定年が近い部長クラスの人に、「俺が会社にいるうちは、おとなしくしておいてくれ」と言われることがあります。つまり、BIMをやり始めると実務がおろそかになるから、あまりBIMを社内で展開しないでくれという意味です。そしたら、「部長の部署の迷惑になることはやるつもりはないです。部長の部署にも必ずメリットが出ますので、見守ってください。」というように、真剣に議論を行うことで、その部長は自分なりにBIMのことを考えて、次第に推進側に変わるという場合もあります。
チェンジ・モンスター「カイケツゼロ」というのがあります。問題点の指摘や、できない理由をたくさん挙げてくるけど、解決策は何も出してくれない方々です。この方々は、例えば、Revitのダメなところを挙げるのは得意だけど、実際は使えるわけではないので、解決策は出せないというような方々です。このような方々は、問題点を出してくれるので、こちらから解決案を出して、調整を図れば、次第に納得していただけるというような場合が多いです。実際、設計が全面的にRevitを使うようになる前に、Revitで書いた図面表現について、かなり議論を繰り返す必要があるでしょう。それによって、納得して頂くことが、本当の意味での全社展開に繋がります。
チェンジ・モンスター「ウチムキング」というのは、上司の評価ばかりを気にして、改革については社内外の状況を考えようとせず、あまり自分の考えを持っていないような方々です。これらの方々は、会社のトップがBIMをやるぞと言えば、「やはり日本の建設業界を変えるのはBIMしかないですよね。」といきなり前向きに変わり、これまで、「BIMなんて無駄だ」と思っていた方々が、「甘い。もっと早く全社展開しないと意味がない」といきなり態度が変わったりします。これらの方々はトップの意見が変わると、意見を変えてしまう可能性があるので怖いのですが、トップダウンの指示さえあれば、推進役になってくれる方々です。
そのほか、チェンジ・モンスター「ノラクラ」というのは、さまざまな言い訳を言って、改革に関わるのを避けようとする方たちですし、「タコツボドン」というのは、自分のこれまでの業務というタコツボにこもり、BIMに関わりを持とうとしない方々です。このように、日本のBIMのプロセス改革には、様々なチェンジ・モンスターが存在するようです。
日本には、BIMによるプロセス改革に対する「チェンジ・モンスター」がたくさん生息しています。しかし、同時にBIMの必要性を感じ、自ら積極的にBIMに取り組む方たちも確実に出てきます。実際、そういった前向きに取り組む方々がBIMプロセス改革の「チェンジ・リーダー」となり、改革は前に進んでゆくのだと思います。
さて日本ではなかなかBIMが進んでいかないのには、そもそもBIMをプロセス改革だと考えていないところにも問題があるようです。そのあたりはまた別の機会でお話ししたいと思います。