第11回 BIMの経典を求めて

 唐突な話をしますね。三蔵法師というのは、インドの経典を翻訳した高僧のことだそうです。その中で、「西遊記」のモデルともなった玄奘さんは、唐の時代に長安を出発し、西域の諸国を巡ってインドに行き、多くの教典を携えて長安に戻り、多くの経典を翻訳したそうです。

 そう、今日は、ゴダイゴの「ガンダーラ」の気分です。

  そこに行けば どんな夢も かなうというよ
  誰もみな行きたがるが 遥かな世界
                ~ゴダイゴのGandharaより    

 玄奘さんは、孫悟空や沙悟浄を連れて天竺に向かったのは物語の話ですが、かなり苦労をして仏教の経典を手にし、サンスクリット語の経典を翻訳して、その教えをわかりやすくして、広めたのだと思います。

 私にとっての天竺は英国です。英国には、BIMに関するたくさんの資料があります。それをネットで見つけ出して、グーグル翻訳し、その内容を見ることを楽しみとしています。

 実はISO19650もそのひとつで、私にとっては経典といえます。日本語版が出版される前に、それを見つけて、読み始めた時、大きな衝撃を受けました。BIMに対する考え方が変わったと言っても過言ではありません。なぜなら、私が長年BIMに取り組んできて、疑問に思ってきたこととか、うまくいかなかった理由とかの回答がそこにあると感じたからです。

 インドの仏教の経典というのはサンスクリット語で書かれていたようです。それをどのように解釈するかは、その経典を読んだものの判断によることになるのだと思います。ISO19650も英国で作られ、英語で書かれたものです。日本語訳もありますが、それを含めて日本における布教のために、その内容を日本の実情を考慮しながら、どのように解釈するかは、それを読む側の判断になります。

 例えば、「発注組織を中心とした情報マネジメント」を理解するために、次のような解釈を試みてみたいと思います。

 「発注組織を中心とした情報マネジメント」を理解するための解釈の例 

 ISO19650は、ある意味BIMを実施する上での組織論が書かれているとも考えられます。これまで、BIMをひとつのツールと考え、その利用方法を考えるといったアプローチで取り組んで来ていたのですが、この組織論がなかったために、期待していた効果が出なかったと考えられます。

 サッカーに例えてみましょう。サッカーはあまり詳しくないのですが、個人プレーでは勝てません。それぞれに役割があって、戦略がある。それを指揮する監督がいる。そのために選手は自らを鍛え、自らの役割を全うしようとするのだと思います。高い能力のプレイヤーも必要ですが、それだけで勝つことは難しく、しっかり戦略を立て、選手はその戦略に従ってプレーしなければなりません。つまり、勝てるための戦略を立てられない監督、戦略を理解できない選手、戦略を実行できる能力を持っていない選手がいたら、勝つことはできません。
  

組織で戦うサッカーのイメージ

 これが建設業にも言えます。サッカーはひとつのチームですが、建物を作り運用するためのチームは複数の多くの企業で構成され、プロジェクトごとに参加する企業が変わります。そのため、そこには戦略が必要となります。まずは、達成すべき目標を定めて、それを実現するために、誰が、いつ、どんな方法で、何をするのかを明確に決めてそれを実行する必要があります。

 その参加する企業すべての司令塔は、建物を立てようとする発注者です。設計事務所やゼネコンなどは、設計とか施工などの業務を請け負うプレイヤーです。設計・施工一貫受注の場合でも、別途工事や運用維持管理といったすべての業務を請け負っているわけではないので、そのプロジェクトの司令塔にはなり得ないのです。

 発注者が司令塔になり得ない場合は、サッカーでは監督を海外から良く招聘しているように、優れた指揮官を雇い入れることもできます。・・・BIMにおける優れた指揮官は、日本では人材が少ないことが課題です・・・

 発注組織がプロジェクトの司令塔にならなかったとしても、プレイヤーである設計事務所やゼネコンがその請負範囲内では、司令塔となってBIMを使った業務を行うべきです。BIMを実行するのに、何の戦略もなく、ただRevitなどのBIMソフトウェアを使っているだけでは、生産性向上などのBIMに期待したい効果は出ません。建設業における、戦略の立て方、そのマネジメントの方法、これがISO19650の情報マネジメントプロセスと言えます。
  

ISO19650の情報マネジメントプロセス

 というように、ISO19650をひとつの経典として、日本での解釈についていつも考えています。この解釈の仕方として、有益なのが、UK BIM FrameworkのISO19650ガイダンスです。まだ、すべての部分が完成しているわけではありませんが、ISO19650について詳しく解説されているので、解釈の仕方を理解する上で、とても参考になっています。

 このUK BIM Frameworkには、興味深い経典がたくさんあります。言葉の壁や文化の違いなどがあり、グーグル翻訳しても、それが意味することがなかなか分からなかったりするのですが、それを日本でどう解釈すればいいのかというのも、私にとっては楽しい作業です。

UK BIM FrameworkのISO19650ガイダンス

 実は、今日、アメリカのニューオーリンズで開催されるAutodesk University 2022に参加するために日本を発ちます。ここでも新しい知識や情報などを得ることができることを楽しみにしています。  

 いつまでたっても学ぶことばかりで、悟りは開けてないですが、まだまだ未熟な私でも、学んだことを伝えることで、皆さんのお役に立つことができればと思います。