今回は、BIM小噺を作ってみました。タイトルは「BIMと3K」です。ゼネコンの社員の与太郎が、社長にBIM買って来いって言われて走り回るという小噺ですが、こういったこと、皆さんのまわりでも、実際に起きているんじゃないでしょうか?
・・・BIM小噺、機会があれば、私もやってみたいものです。
BIM小噺 ~建設業の3K
日本の建設業は多くの問題を抱えておられます。どこの企業も3Kなんてものに悩まされます。3Kというのは、きつい、汚い、危険と今の若者に嫌われるような言葉で、これじゃ、今どきの若者も建設業界に来たいなんて思ったりはしません。さらに、6Kというのは、給料が安い、休暇が少ない、カッコ悪いが増えていますから、建設業界というのは闇の巣窟みたいなところと思われても仕方ありませんね。
そこで登場したのがBIMという奴です。この南蛮渡来の考え方は、いつのまにか、建設業界の救世主なんて呼ばれていますが、実はその実態を皆さん理解してなかったりします。このBIMで建設業は3Kから脱することができるんでしょうか?
ゼネコン社長: おい、与太郎。与太郎はいるか?
社員与太郎: へいへい、ここにおります。今日は何の用でございますか?
ゼネコン社長: なんだか世の中はBIMというものが流行っているらしい。先日横丁の旦那が、お国に話を聞いてきて、これからはBIMというものをやらないと 会社が潰れてしまうのだと聞かされたみたいだ。うちも潰れてしまったら、3代続いたこの会社の先代に申し訳ねぇから、BIMをやることにしたよ。
社員与太郎: へぇ。BIMってのを、やることにしたんですね。なんだかわかりませんが、そりゃ、よろしゅうございました。では、これで。
ゼネコン社長: ちょっとお待ち。話は終わっちゃないよ。話はこれからだ。
社員与太郎: おいらも忙しいのでございますよ。なにしろ3Kの会社でございますから、汚くて、きつくて、カッコ悪い仕事がたくさん待っているんですから。これ以上の雑用は勘弁してくださいまし。
ゼネコン社長: おいおい、その3Kから脱するためにBIMってのを、やるんだよ。ひいてはお前のためだ。だからな、ひとっ走り行ってきて、BIMっていうのを買ってきてくれないか?
社員与太郎: へっ?BIMってのはお店で売っているんですか?なるほど、そういうものだったのですね?で、どこに行けばよろしいんで?
ゼネコン社長: どこで売っているのかわからないから、お前に頼んでいるんじゃないか。なんとかするのが与太郎のいいとこじゃないか。期待してるから買ってきておくれ。
社員与太郎: へぇ、わかりました。社長がおいらに期待するなんて言われるのは初めてですので、買ってこないことには、男がすたりますねぇ。では、これからBIMを買いに行ってきます。
社員与太郎: 期待してるなんて旦那が言うから受けちゃったけど、おいらどこに行けばいいのかわからないなぁ。仕方ない。こんなときは長屋の長老に聞きに行ってみるとするか?長老なら団子でも持っていけばBIMを売っているところを教えてくれるよな。
社員与太郎: ちわー。長老はおられますかぁ?団子持って、あなたの与太郎がお伺いに来ました。
長屋の長老: お、与太郎かい。よく来たね。団子を持ってくるとは珍しい。なんか魂胆があるに違いないな。しかも、あなたの与太郎なんて、気味の悪い言い方をしよる。こりゃ、気を付けたほうがええな。
社員与太郎: 長老、なにをぶつぶつ言っておられるのですか?おいら、団子持ってきましたよ。熱いうちに食べたほうがええでございます。(パクリ)
長屋の長老: おいおい、いきなり来て、団子食べだしたよ。こいつ、自分が食べたいから買ってきたんじゃの。
社員与太郎: (もぐもぐ)長老、実はお話が(むしゃむしゃ)。うちの社長がBIM買ってこいっていうんで、どこで売ってるのか教えてもらえませんか?(パクパク、ごくん)
社員与太郎: せっかく土産持ってきたのに、お茶ぐらい出してくれてもええんじゃないですかの?
長屋の長老: 結局ひとりで食べよった。何が土産じゃい?さらにお茶まで要求しよる。図々しいにもほどがあるのう。
社員与太郎: (ごくごく、ぷふぁー)ではBIMがどこで売っているのか教えてくださいまし。
長屋の長老: えっ?与太郎よ。BIMを買いたいと言うが、そもそもBIMって何か知っとるのか?
社員与太郎: そんなもん。知りませんよ。社長が買って来いっていうから、おいらは3Kで忙しいのに、こうして走り回っているんでございます。どうやら、おいらの仕事を楽にしてくれるって社長が言うんですが、BIMが何かなんてどうでもええのです。
長屋の長老: おいおい、それじゃあだめだよ。いつも言ってるだろ。何もわからないで行動するんじゃないって。BIMってのは、新しい技術で新しい仕事の流れ(プロセス)を作るという、南蛮渡来の考え方じゃ。これは考え方じゃから、お店で売っているようなものじゃないのう。
社員与太郎: うーーん。(長老、何言ってるんだろ?)でも、お隣り町の熊五郎の会社の、「BIMを始めました」って記事を、瓦版で見ましたぜ。あの会社はどこでBIMを買ってきたんでございますか?
長屋の長老: 与太郎。あの瓦版よく読んだか?「熊五郎がBIMでパースを書きました」って書いてあったじゃろ?ありゃ、本当は、「熊五郎がBIMのソフトウェアでパースを書きました」っていうことなんじゃよ。BIMは考え方で、BIMソフトウェアは道具(ツール)のことを言う。だから、熊五郎は、BIMソフトウェアでパースを書いたんじゃな。
社員与太郎: 長老。だったら、そのBIMソフトウェアってのを買えば、BIMを買ったことになるんじゃないですかい?だったら、BIMソフトウェアってのを買いに行けば、ええってことですね。では、ひとっ走り行ってきます!
長屋の長老: まぁ待て、与太郎。慌ててはいけない。もちろん、BIMソフトウェアを買うことはできるが、それだけでは、お前の3Kは解消されないよ。むしろ一時的にはもっとひどい状態になるかもしれんな。
社員与太郎: ええっ。BIMソフトウェアを使えばすぐに3Kが、「給料たっぷり、休暇たくさん、希望がもててかっこいい」に変わるじゃないんですかい?これ以上苦しいなんてKが増えたら、やっていけませんぜ。
長屋の長老: ほほう。与太郎は、新3Kのことも知っとるんじゃのう。なかなか物知りじゃ。お国もそれを目指しとるのは事実じゃ。
長屋の長老: また、確かに、BIMソフトウェアがなけりゃ、そもそもBIMというプロセスは作れんから、必要なことなんじゃよ。だけど、ツールとしての使い方しか考えんかったら、綺麗なパースができるぐらいで、仕事の本質は変わらにゃせんのじゃ。仕事の本質を変える、これを目指してBIMソフトウェアに取り組むってのが、苦しくて汚い3Kを綺麗でかっこいい3Kに変えることに繋がるんじゃよ。
長屋の長老: 長老のいうことは難しすぎるから、わしにはわかりません。とりあえず、隣の熊五郎のところに行って、聞いてみますわ。
社員与太郎: おーい、熊公。おるか?
隣の熊五郎: なんだ、与太郎かい。なんか用か?
社員与太郎: 瓦版に「BIMでパースを書いた」なんて書かれておったけど、熊の暮らしはよくなったんか?
隣の熊五郎: 久しぶりに来たと思ったら、いきなりなんだい。ほうほう、瓦版読んだんじゃな。そうよ、これがBIMで書いたパースじゃ。カッコええじゃろ。
社員与太郎: たしかに、カッコええけど、わしが聞きたいんは、熊の仕事が楽になったかどうかよ。
隣の熊五郎: 実は仕事は忙しくなったな。だって、これまで外注すればよかったパースを自分で書かなきゃならないから、仕事は増えたんじゃ。そもそも、図面は2次元CADで書いてるのを、わざわざBIMソフトウェアで立体を作ってるから、パースと干渉チェックぐらいしか使い道がないんじゃ。でも、わしが、BIMやらんと会社が潰れるって社長に言って買ってもらったソフトじゃけぇ、BIMやらんといけんのよ。
社員与太郎: へっ?それって、結局自分で自分の首絞めて、苦しくなっとるだけじゃないのか?
隣の熊五郎: ほうじゃけど、お客さんは喜ぶし、お国もBIMをやれって言っとるけぇ、BIMをやってるってことは会社としてのイメージアップになるじゃろ。じゃけぇ、ちーとは苦しゅうても、ええかのうとおもっとるんよ。
社員与太郎: (ぶつぶつ)長屋の長老が言いよったことが少しわかってきたよ。道具としてBIMソフトウェアを買っても、2次元CADの後追いじゃ、作業は増えるばかりで、もっと3Kがひどくなるだけなんだな。じゃあ、南蛮では、どうしてBIMをやると作業が楽になるっていうんだろうか?仕事自体のやり方を変えんといかんということかもしれんな。
社員与太郎: 熊、無理して体を壊しちゃあ、意味がねぇ。ほどほどに頑張んな(笑)
社員与太郎: 長老、長老、てーへんだ。熊のところへ行って来たら、BIMでパースを書いても、むしろ作業は増えとるって言いよった。瓦版にはええことばかり書いてあったけど、実態は違うみたいでっせ。
長屋の長老: だから、言ったじゃやないか。社長にBIM買ってこいって言われて、BIMソフトウェアを買ってきても、苦労するだけじゃって。BIMはプロセスだから、新しい仕事のやり方を考えたうえで、何のために誰がどういったBIMソフトを使うかといったような戦略が必要だということじゃ。そうすりゃあ、南蛮で言われるような成果も期待できるのに、このあたりじゃ、それがわからんやつが多いからの。
社員与太郎: なるほどねぇ。安易にBIMソフトウェアを買ってきたら、わしが苦労するだけじゃったか。
長屋の長老: でも、BIMやらんと将来会社が潰れるっという話は、あながち間違っとらん。正しくBIMを理解し、仕事のやり方、つまりプロセスまで変える会社が出てきたら、かっこいほうの3Kは実現できるかもしれんからの。ほら、今言ったプロセスは国際規格(ISO19650)にもなっとるから、ちゃんと勉強するんだよ。
社員与太郎: えっ!お国どころか、世界レベルで規格が作られてるんですかぃ。そりゃ、てーへんだ。
社員与太郎: 社長、帰ってまいりました。
ゼネコン社長: お、やっと戻ったか。それでBIMを買って帰ったか?
社員与太郎: BIMは売っていはいませんが、BIMソフトウェアは売っているということがわかりました。
ゼネコン社長: そうか。じゃ、それですぐBIMをやって、仕事の効率を上げて、うちを儲けさせておくれ。
社員与太郎: BIMソフトウェアは買えますが、それを使っても作業の効率は上がりません。むしろ、使い方によっては、作業の効率が落ちる場合もあると、隣の熊五郎が言っていました。
ゼネコン社長: だったら、うちは潰れるっていう話だけど、どうするんだい。
社員与太郎: BIMで作業の効率を上げ、儲けるためには、会社が変わらなければなりません。つまり導入の戦略を練って、BIMソフトウェアによる業務基準を作って、それで経験を積むことから始めることです。そして仕事のやり方を変えるようなプロセスを作るのです。そのためにはまず、BIMの3Kが必要です。
ゼネコン社長: おっ、それは、何だね?
社員与太郎: BIMの企画・基準・経験で~す。これがBIM導入の3Kでございます。
ゼネコン社長: それができるとうちの会社はどうなるのか?
社員与太郎: それも3Kです。そうなると、うちの会社は、協力して仕事が出来るので、効率が良くなり、結果金が儲かります。
お後が、よろしいようで。