しばらく、WindPerfectのトライアルを記事にしてきましたが、今回は、原点に戻って、BIMについての話をしてみようかと思います。続きはまたやりますので、しばらくお待ちください。
パリのオリンピックが終わりました。日本のメダルは金20個、銀12個同13個の45個で金メダルの数は、アメリカ・中国に続いて3位でしたね。毎日、日本人選手の活躍がニュースなどで報じられて、様々な競技、とても面白かったです。
ここでふと思いました。このように、全世界の国々が、様々なスポーツで、同じルールの元に競技が行われるのはすごいことだけど、どうして違う国が同じルールで競技ができるのかと。これは、それぞれの競技に対して、ルールが国際的に決まっているからなのでしょう。当たり前のことです。だから、全世界の肌の色も目の色も違う人たちが汗を流して競い合うことができるのでしょう。もし、スポーツが、国によって異なる解釈やルールを持った競技であれば、このように世界中の国々が一緒に競い合うことはできません。
これを建設業界に置き換えて考えてみましょう。もし、国や企業が、それぞれ異なるルールで建設業務に取り組んでいたとしたら、本当の意味で、国や企業を越えて一緒に仕事することはできないのではないかということです。しかし、建物は基本的に一品生産でまったく同じ建物はなく、それに関わる組織や関係者などの、とても多くの複雑な関係性があります。
これまでは、これらの多くの歯車(複雑な組織や様々な技術を歯車としています)の情報の中心に図面というものがありました。建物の情報を2次元の図面に書き込み、それで情報を伝えるという方法です。設計者が図面に建物の意図や情報を書き込むというのが、唯一の手段だったのです。設計図は作成されたプロセスに関係なく最終的には印刷されたものが正しければよかったので、作業方法や手順、プロセスは問われませんでした。これは昔、手書きで作っていたものがCADに変わりましたが、この変化は、図面を書くという作業が機械化されただけで、本質的な変化はなかったと言えます。長くこうやって、建設業界は建物を作ってきました。つまり、図面作成という作業を個人で行っていた時代には特に図面表現にルールがあっても、作成するプロセスにはルールはいりませんでした。
ところが、このCADによる2次元図面は、線と文字で書かれた情報に過ぎないため、情報や業務のデジタル化に進めず、結果としてデジタル化による業務改革にはつながりません。これを構造化されていない情報と言います。BIMソフトウェアで作ったBIMモデルは、建物と同じように3次元の部品で構成され、それぞれが情報を持ち、関連した情報として集計できるので、構造化されている情報と言い、デジタル化が可能となります。このBIMモデルの作成は、図面単位に分業し、それぞれを個人で作図していた従来の作業に比べ、建物全体をモデル化しなければならないため、クラウド上のモデルを複数の作業者が同時に作業するという作業が必要となり、作業の手順自体にも標準化が必要となるのです。
つまり、従来の業務フローを変えずに手書きからパソコンへの移行であった図面を作るためのCADと、新しいプロセスでの協動作業により作られるBIMモデルから、図面だけでなく、様々な情報の取得を目指すBIMでは、そもそも根本的に取り組み方が違います。そこでBIMでは、必要とする情報を作るためのプロセスやワークフローが重要となります。そのため、情報の生産手法や手順の共通化が重要となるのです。
例えばCADの部品というのは、基本的に図面を作るためのもので、それ以上の意味はあまりなかったのですが、BIMにおける部品は、3次元の形状に加え、2次元の図面にした時の表現や、部品に加えておくべき属性情報などを入れておかねばなりません。これらの属性情報を集計することで、様々な情報を得ることができます。これらは、本来各社で作るべきものではないですが、共通のルールがないため、BIMにおける部品を各社で個別に用意せざるを得ず、これもBIM導入の足かせになっているとも言えます。
さて、共通のルールについて考えてみましょう。共通のルールには、技術的な側面と運用的な側面があります。野球に例えると、技術的なルールは、ボールの打ち方・投げ方や、どうやったら打ったら飛距離が出るかとか、どういった球種を開発するかとかでしょう。また、運用的なルールですが、ストライク3つでアウトになり、アウトが3つになると攻守を交代するとか、コールドゲームの定義をどうするかなど、いろんな決め事があります。これら二つの側面のルールによって、公明正大で円滑に競技ができます。
無理やりですが、これを建設業界にも当てはめてみましょう。BIMの技術的な側面としては、BIMソフトウェア(3次元のモデルに属性情報を持たせることができるツール)、共通データ環境(CDE)ソリューション(クラウドを活用して建物の情報を生産・レビュー・承認・保管といったCDEワークフローを構築できる技術的ソリューション)などです。3次元の部品を作りこれを活用するというのも技術的な側面です。これらは、2次元図面の時代にはなかった、新しい時代の建設業界の技術の中心となる技術です。この技術的な側面については、かなり進歩してきていますが、企業ごとの取組で共通のルールにはなっていないのが実情です。
さて、BIMの運用面での取り組みですが、建設業界では、BIMソフトウェアに取り組もうとはしているものの、実は、従来の2次元CADの業務フローから大きく変えようとはしない会社がほとんどです。この従来のワークフローに何の問題もなければいいのですが、デジタル化できず、基本的に紙で仕事をしていた時代のワークフローなので、作業の内容が曖昧であったり、情報の保管が個人任せであったり、個人の力量によってその品質が左右されるような仕事になっています。このような職人気質での業界から、協働作業に変わる必要があります。このBIMによる協働作業を前提にした運用面のルールでは、発注組織による情報交換要求事項や、元請受託組織によるBIM実行計画、協働生産を可能とするCDEワークフローなどを確実に実施できる枠組みが必要となります。
この枠組みが、国際規格であるISO19650シリーズと言えます。これは、ISO(国際標準化機構)が発行しています。設計施工の情報マネジメントの規格であるISO19650-2には、これらの枠組みを確実に実行するための計画と実施について、規格としての要求事項が記載されています。これによって、BIMという曖昧な概念が、企業や国を越え、協働で取り組むことができるようになります。国際規格は、組織や企業を越えて、協働作業ができるように、用語や考え方などと統一するために作られたものなので、オリンピックの国際ルールのようなものだと言えます。今、世界中の国々がこの規格に取り組んでいます。この規格を実務で活用するためには、建設業界全体で取り組むべき、部品の作成ルールや、BIMソフトウェアのテンプレートなどの共通化、さらに情報コンテナの命名規則やメタコードの共通化などの取り組みも必要になります。これらのついては、なかなか前に進むことができませんが、私は、BIM Innovation HUBという非営利団体での活動を通して、進めていきたいと思っています。
オリンピックにおいて、日本の金メダルは世界3位でしたが、BIMの世界では、果たして何位に入れるでしょうか?しかし、従来の業務プロセスを日本の商習慣という言葉で変えようとせず、根本的な業務改善に取り組もうとしなければ、BIMの成果や効果として、上位に上がることは難しいでしょう。国や世界を越えて、建設業界の全員が手を繋ぎ、協働作業で業界が根本的に変わった世界を私は見てみたいと思っています。