第18回 ~クリーンルーム&大気乱流解析~

 コロナがようやく収まりつつある(ように見える)ため、先日妻&子供2人&孫2人を連れてTDL(東京ディズニーランド)に行ってきました。TDLは長女の誕生年(1983年)に開業ということで、家族皆が親しみを感じており昔から度々連れて行かされています。TDLに行った際、宿泊するのは決まって舞浜のSホテルです。

 同ホテルの1階部分には約45m×20m、高さが約10mの2層吹き抜けガラス張り温室状のアトリウムがあります。このアトリウムは外部の庭園との連続性を持たせるとともに内部には池、滝、小川の水の流れ、植栽等を配し快適な「自然空間」を作り出し、ホテルロビーへ広がるゆとりの空間を構成しています。本アトリウムは筆者がT建設に入社して初めて設計・解析に携わった思い出深いアトリウムです。筆者が入社した頃はこのようなアトリウムをもつ大空間の計画が各地で行われていました。

 アトリウムは言うまでもなく、ガラスの屋根や壁に覆われた大空間で、屋内でありながら、屋外環境を感じることが出来る開放空間です。アトリウムは必然的にガラスを多用した大空間となるため、特に夏季には日射が室内に強く侵入し、そのままでは日射負荷の大幅増加につながります。つまりアトリウムでは「太陽の光は欲しいが熱は不要」ということになり、このトレードオフ関係を如何に解決するかが設備設計者の腕の見せ所になります。

 当時アトリウムについては空調設計資料が十分に整っておらず、本件についてもまず模型実験により検討することになりました。1/30のアトリウム部分の模型を作り、T建設の研究所内の人工気象室(温湿度を一定にコントロールして外気の模擬が可能な実験室)に設置しました。このような室内模型実験においても風洞模型実験と同様に相似則(模型実験結果が実物と同等になることを保証?する理論で通常ある無次元数を一致させます)が必要になります。詳細は略しますが、本件では相似則として吹き出し気流のAr数(アルキメデス数)の一致を採用しました。本計画では窓際の熱処理は床近傍の多数のファンコイルが受け持っていました。模型実験では模擬ファンコイルの吹き出し風速と温度を相似則に従った数値に設定する必要があります。しかし実際にやってみると模型内の模擬ファンコイルや配管も複雑で(添付写真参照)必要な風速&温度がなかなか設定値通りにならず(相似則が成り立たず)、この調整だけでも大変な労力を費やしました。

 現在であれば模型実験ではなくCFDで十分対応できますが(ちなみにCFDではこれらの風速&温度は誤差なく瞬時一発で設定可能です)、当時は筆者の能力不足でCFD解析はアトリウム全体ではなく窓際のファンコイル気流の挙動予測にとどまりました。

 とりあえず何とかAr数一致の条件を再現し、測定を行い設計にも実験結果の知見を反映出来ました。また竣工後本アトリウムの実測を行い、空調が順調であることも確認できました。

 ところでこのアトリウム内の検討において重要なポイントの1つは上述の通り日射の再現方法でした。従来法では床面、壁面、窓面等の日射による発熱想定部分に発熱板を設置していましたが、本件では(研究所保有装置の有効活用の意味もあり、新たな試みとして)日射模擬装置を用いました。この実験は大変注目も集まり社内外から多くの見学者も訪れました。恩師のM教授にも見学していただき様々なご意見をいただきましたが、その中で日射模擬装置の使用については懐疑的でした。確かに日射模擬装置の波長特性や模型部材の放射物性、熱物性を考えるとかえって不確定要素が増え、実験誤差も増えたかもしれません。その後実験は通常の従来法に戻しました。これがきっかけの一つとなり、日射解析ソフト開発の必要性を強く感じるようになりました。そこで独自に日射を詳細に解析できるソフトを数年かけて開発し(SolarI、SolarIIと命名)、その後数多くのプロジェクトで使用しました。話を戻しますが、当時強く感じたことは風洞、室内のいずれであっても一般に「熱」を考慮する場合には総合的に考えて模型実験よりCFDを用いる方が圧倒的に有利であるということです。このような実感を抱きながらその後、アトリウムに限らず様々な著名な?大空間内のCFD解析を行うことになります。これらについては次回以降お話ししたいと思います。

アトリウム模型実験写真
アトリウム模型実験写真