真偽を疑う方もまだいらっしゃると聞きますが、全地球的に温暖化が進展しているといわれています。そのため、国際的にも温暖化ガスの排出規制強化が進んでいるようです。人為的な温暖化ガスの排出が、温暖化の原因ということにも異論がある方が一定数いらっしゃるようですが、人類史において記録が始まって以来、近年は加速度的に地球温暖化が進んでいることは確かのようです。中緯度に位置し、海洋に囲まれていて、比較的寒暖に関しては条件が良いと思われる日本においても、ここ100年余りのトレンドを見る限り、最近は昔に比べて、夏は明らかに暑くなっているようです。
暑さ、寒さに関しては、対象を何にするかによって評価が異なってきます。熱帯地方の植物を対象にするのか、あるいは寒冷地方の植物を対象にするかでは、温暖化に対する評価は、異なることもあり得ると思います。しかし、まず頭に浮かぶ対象は人です。地球上では、様々な生命の営みがありますが、我々、人にとって、優先順位の一番は、我々自身、人の営みが最優先です。他の生命種に関しては、まずは人の営みに関して許容できない影響のないことが確認された後の課題になります。多くの場合、生命の多様性の確保という観点から、人類によって管理可能なところに関して、考慮されているようです。しかし、地球上の生命史を考えれば、数々の生命種が絶滅していることはよく知られています。人類の活動の影響により急速に多くの生命種が失われていることに、今更、後ろめたさを感じたとしても、仕方のないことと諦めることも可能かもしれません。所詮、絶滅への道をたどっており、人類が、その絶滅に抵抗したとしても、絶滅までの時間の猶予を増やしただけで、所詮、絶滅を免れ得ないかもしれません。地球上の生命史において、数々の生命種が絶滅した歴史があり、今ある生命種は、それでもしぶとく、命をつないでいることを考えれば、人類以外の他の生命種の保全を考えることは、ある種、お人よしの人類のおごりのようにも思えます。まずは他の生命種のことは差し置き、温暖化の影響に関しては、人の活動や人の温冷感に関することを第一に考え、その対策を優先することは、やむを得ないことと思います。ここでは、人の温冷感に関して、若干、触れてみたいと思います。
人の温冷感に触れる前にまず、人類史を辿ってみたいと思います。ホモサピエンスと称される人の起源は、4-5万年前と言われています。1世代20-30年と考えると、1万年は、多くても約500世代程度ですので、ホモサピエンスが誕生して、人類はまだ2000世代程度しか経ていません。特に、ヨーロッパやアジア人は、わずか1000人程度の集団(と言われています)がホモサピエンス誕生のアフリカから中東を経て世界に拡散したといわれており、種としての同質性は疑いないようです。ホモサピエンスは、出アフリカの際、中東の地でそこに先住していたネアンデルタール人とも交配したといいます。結果、アフリカ人には、ネアンデルタール人の血は入っていませんが、ヨーロッパ人やアジア人は全遺伝子中、10パーセント程度のネアンデルタール人の遺伝子を継承しているそうです。ホモサピエンスとネアンデルタール人は、交配が可能という意味では、ほとんど同じ種といえるようですが、その意味でも、ホモサピエンスの生理的特徴は、かなり均質であるようです。話が飛びますが、現代技術の中で、メタヒューリスティックアルゴリズム(最適化探査)があります。トレードオフ関係があるなど、かかわる要素が多い事象の中で、最も都合の良い各要素の値の組み合わせを求める作業にこの最適化探査技術が使われます。最適化探査の手法の一つに、遺伝的アルゴリズムがあります。最適化探査は、遺伝子で表現した「個体」を複数用意して一つの世代集団を作成し、その世代内で適応度の高い個体を優先的に選択して交叉・突然変異などを行い、これを複数の世代にわたり繰り返しながら解を探索するものです。用意された遺伝子の多様性にもよりますが、最適解を見出すに、数百世代、数千世代程度の探査をした経験から考えますと、人類が誕生してからまだ、高々2000世代程度の歴史しか経ておらず、ほとんどホモサピエンスが誕生した時から進化していない(3万年前のホモサピエンスを現代に連れきても現代人と全く変わりなく学習し、思考し、運動し、生活できる)ということに感慨を覚えます。
アフリカのサバンナで活躍した我々の祖先、ホモサピエンスは、体毛をなくしたうえ、発汗能力に優れていました。この暑熱下での体温調節能力の強化により、長時間の継続的な運動能力を獲得し、短時間の運動能力が劣っていても、集団で執念深く追跡して獲物を仕留めことができたといいます。コミュニケーション能力に優れていたことも、ホモサピエンスを有利にした大きな要素と言われています。コミュニケーション能力が、大きな集団の円滑な運営を可能にし、個体が得た知識情報が広く世代間も含め集団内で共有されたことが、厳しい環境下でも種を絶やさず現代まで生き残った大きな要因とされています。
ヒトの遺伝子は、雌雄の交配を重ねるたびに、交雑し、また次の世代の個体へと受け継がれます。この過程で、人の遺伝子は、集団の中で拡散していきます。ある特定の人の持つ形質が、子供や孫、ひ孫、玄孫と世代を重ねるたびに、人の集団の中で拡散していくわけですが、この拡散は世代を重ねる毎に行われるもので、人の歴史がまだ2000世代程度ということは、ある意味、それほど十分な拡散が行われていないこと意味するのかもしれません。たとえて言えば、歴史上の人物である徳川家康の遺伝子は、現代まで、まだ20世代程度しか交雑、拡散したに過ぎません。広く日本人の多くに徳川家康の遺伝子を幾分たりかは受け継いでいるといい難いところになります。邪馬台国の卑弥呼やその親族の遺伝子は、約80世代程度は交雑していますので、日本人のある程度の人々が、卑弥呼由来の遺伝子を継承しているといえるかもしれません。ただ、ミトコンドリア中の遺伝子は、交雑せず母親からだけ受け継ぎますし、性を決定するY染色体も交雑せず、父親から男児にのみに受け継がれますので、世代を重ねても自身のY染色体やミトコンドリア中の遺伝子の由来を特定の祖先に置くことは原理的には可能なようです。
人のみならず動物は、代謝により産熱しています。普通体重の男性の成人の一日当たりの食べ物によるエネルギー補給が1日2000Kcal程度と言われていますが、これをほとんど代謝により熱に変えています。この代謝による産熱量を仕事率Wに直すと、一日平均、約100Wとなります。この産熱量は、運動強度により変わります。座ってリラックスしている場合が100W程度に対応しており、夜間の就寝時には、数割程度低くなります。仕事などで脳が活躍したりすると体を動かしていなくとも代謝量は上がります。歩行やジョギングなど運動すれば、さらに上がります。歩行時はおよそ250W程度、ジョギングなどをすれば600W程度になるといいます。いずれにせよ、人は平均すると100Wで発熱する発熱体で、体温を約37℃に保って、生命活動を行っています。これは、人類、ホモサピエンス内で共通です。産熱は、主に内臓や筋肉で行われており、その最適温度が37℃ですが、37℃をキープするためには、この100Wの産熱を人の周囲の外部環境に放熱しなければなりません。放熱できなければ、代謝による産熱により体温が上昇してしまいます、短期的な体温上昇や、限度を超えない体温上昇であれば、人は耐えられますが、限度を超える体温上昇が続けば、生命現象の終焉、すなわち、死亡してしまいます。マラソンなどの強度の高い運動(産熱量は1kW以上にもなるでしょう)をすれば、運動するための代謝が増大し、体温が上昇しますが、限度を超えて運動の継続、過度な代謝の継続は、生命の危機をもたらすので、意識的にも、無意識的にも不可能です。ただし、人は体毛をなくして皮膚から環境への放熱能力を上げ、さらに発汗による蒸発潜熱による冷却能力も獲得しているので、他のどんな動物(哺乳類)より、強い運動を長時間継続することができます。マラソンや鉄人レースのような高強度で継続時間の長い運動を、他の動物に強いることはできません。人が他の哺乳類と明らかに異なる大きな特徴です。周囲環境が、放熱に不利な暑い環境になると、人に限らず、他の動物(哺乳類)は代謝量を下げて産熱量を減じます。熱い日中に運動する哺乳類はバカです。死んでしまいます。人も含め哺乳類は、暑熱環境では、昼寝などで代謝量を最小限に保ち、産熱量を最小化するよう遺伝的にプログラムされています。
人が周囲環境に放熱して体温を37℃に維持していることは、周囲環境が37℃以上になった場合には、代謝による産熱を放熱することが、難しくなることを意味します。熱は、高温部から低温部に伝わりますが、低温部から高温部には伝わりません。周囲環境が37℃以上になった場合は、人体からの放熱が極めて難しくなることを意味します。ただし周囲環境が37℃以上でも、放熱は可能です。水の潜熱を使用した放熱です。体の中の液水を水蒸気に相変化させる際、水蒸気潜熱が消費されます。水1gで約2200J程度の潜熱が必要になるので、液水を毎秒0.05g程度、水蒸気に変換して体外に排出できれば、100W程度の排熱はできそうです。マラソンをする人はその10倍発熱していますので、毎秒0.5g 、1分間に30g程度は水蒸気を放出する必要があります。人は毎秒150cc程度の空気を呼吸しているので、呼吸で水蒸気を排出して、代謝熱をある程度排出することは可能です。40℃以上、60-80℃のサウナに長時間入っていられる人は、発汗で皮膚からの汗の蒸発とともに、呼吸で代謝熱を捨てているのでしょう。発汗できない動物、犬などは、暑熱環境では、主に呼吸で排熱しているようです。
呼吸による水蒸気放出による人体の産熱排出のほか、皮膚からの発汗が蒸発することにより皮膚面を冷却し、代謝熱を放熱することもできます。しかし、どんなに汗を蒸発させても、皮膚温度は周辺の空気の露点温度以下には下がりません。これは、皮膚表面だけでなく、呼吸時の肺胞の中で行われている水蒸気放散でも同様です。なお、当たり前とも思いますが、皮膚からの発汗による放熱は皮膚表面を通過する空気量が増えると、すなわち皮膚に風が当たると大幅に増加します。これは、皮膚表面から蒸発して水蒸気量の多い空気すなわち湿度が高くなった空気が、速やかに皮膚表面からはがれて、まだ皮膚からの放散水蒸気を含まない空気が皮膚表面近くに運ばれてきて、汗の蒸散を促すからです。
皮膚に風を当てると、発汗による汗の蒸散を促し、蒸散熱による皮膚表面の冷却が可能になりますが、この風の温度が高い場合には、まずいことも起こります。皮膚の表面温度は、体温より低いのが一般的です。これは体の中で産熱された熱を皮膚表面まで伝熱するためには、皮膚の表面温度が体温より低い温度でなければならないことを意味します。皮膚の表面温度が体温より高ければ、熱は皮膚から体内に伝導されてしまい、皮膚から放熱することができなくなってしまいます。一般に人の体表面の平均温度は、体内の37℃より3-4℃程低くなっているようです。人体周辺の空気の温度がこの平均皮膚温度(33-34℃)より高くなってしまうと、発汗でいくら放熱しても周辺空気からは逆に空気から皮膚に熱を伝えることになってしまいます。平均皮膚温度より高い温度の空気が皮膚に向かって吹き付けると皮膚表面温度が上がってしまうので、温度の高い風は、人体の産熱の放熱には邪魔になります。
暑熱環境での人体冷却の物理過程は、空気の流れや人体皮膚表面での熱伝達や水蒸気放散、あるいは肺胞内での水蒸気放散などを流体シミュレーションにより詳細に解析することが可能になっています。建物中や乗り物の中での温熱環境の解析に流体シミュレーションはなくてはならないツールとなっています。暑い夏を乗り切る第1歩として、CFDシミュレーションが期待されています。