移動物体:スライド式ドアの喫煙室の煙濃度シミュレーション

解析の詳細

    【解析結果】
     図2に喫煙室から人が退出する際の周辺気流の状況をを示す(計算開始5秒後)。人体の後方には歩行速度と同程度の気流が発生しており、喫煙室内の煙濃度の高い空気を大量に喫煙室外に誘引していることが分かる。 また誘引と同時に室外の清浄な空気が室内に侵入している。

     


    図2 喫煙室から退出する人体が誘引する気流分布

     

     

     


    図3 喫煙室退出時のドア周辺濃度分布の時間変化

     

     人が扉を開けると、それだけでは喫煙室内の空気は外に排出されない。 ところが人が徐々に移動を始めて身体が外に出ると、それに引きずられるように喫煙室内の煙を含む空気が外に向かって移動するのが分かる。 人の身体がドアから外に出ると、それに合わせて喫煙室からの煙の漏れは大きくなる様子が観察される。

     

     人の身体が外に出た分、そのボリュームだけ室外の空気が喫煙室内に進入します。 室外の比較的清浄な空気と室内の煙を大量に含む空気が、ここで混合する訳です。 この混合は、人体の左右・上下で同様に起こります。

     

     ドアを通過した人は、少し移動して方向を転換した後、足早に執務室に戻る。 喫煙室から漏れる煙は、人体がドアから離れるにつれて漏れ出る速度が弱まり、ついには人体の動きに追随しなくなる。 煙の拡散はそこまでが限界で、人体が方向転換した付近で空間に留まり、残滓もしばらくして消滅する。

     

    このような喫煙室での人体の移動による煙の漏れが、移動物体解析では非常に分かりやすく解析が可能である。 これらの結果は、別に測定されたVOC測定結果と比較し学会発表する予定である。

     

    【まとめ】
     スライドドアを持つ喫煙室について、ドア開閉と人体移動を伴う煙の移流拡散シミュレーションを、移動物体解析手法を用いて行った。 人体による煙の誘引は大きいことが分かった。 今後様々な喫煙室の解析を進め、受動喫煙の少ない喫煙室の設計に資することを目指す。
・解析の目的
 受動喫煙によるタバコの煙の被害は深刻さを増し、世界的にもその防止施策が注目されている。 日本でも2018年7月に健康増進法が改正され、2020年の本格施行で屋内の喫煙は原則禁止されるが、企業・機関などで煙が漏れない喫煙専用室を設けた場合に限り、喫煙は容認されることとなる。しかし、喫煙室に満たされたタバコの煙を含む気流がどのように拡散するかは定量的に評価されていない。
・解析の内容
 移動物体解析手法を用い人の出入りに関わる喫煙室からの煙の拡散を再現するシミュレーションを試みた。 喫煙室には実に様々なタイプのものが存在するが、ここではスライド式のドアをもつ実在の喫煙室を対象とした。

 


図1 スライドドアのある喫煙室 概観

 

移動物体解析手法には構造格子でのEuler系技法の一種であるSuper Cartesian法と呼ぶ手法を用いている。 ここで用いたCFD解析手法のあらましは次のようである。

 

・基礎方程式:NS方程式,連続の式,濃度移流拡散方程式
・空間の離散化:不等間隔格子(最小格子間隔0.5m)
・時間の離散化:SMAC法 移流項:Hybrid中心差分
・乱流モデル:直接シミュレーション(DNS)
 初期条件:流速ゼロ 濃度:喫煙室以外はゼロ 駆動条件:移動物体平行移動・回転移動

 

移動物体気流シミュレーションの手順としては、
① 解析空間(固定)の作成:6.6m × 7.0m × 3.0m
② ドアモデル・人体モデル(移動物体)の作成。解析モデル作成は3次元CADを利用。
③ モーションの設定:平行移動,回転運動の設定を順次行った。 
④ 人体は扉内側でドアが開ききるまで待機した後、秒速0.4m/secでドアを通過し、90度方向転換してから執務室方向に秒速1.0m/secで移動する。 ドアは、人体通過後に閉じる設定になっている。
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